英雄は愛のしらべをご所望である
ウィルが椅子に腰を下ろす。
自分が使っている椅子なのに、ウィルが座るとあまりにも小さくて窮屈そうに見える。
長い足が収まっていない。
「……店で食べた方が寛げたかも」
セシリアは思わず苦笑いを溢す。
「まぁ、狭いと言えば狭いが」
座り直しながらウィルは食べやすい姿勢を探す。
セシリアはその様子を心配そうに見ていた。
ウィルがふっと口元を緩める。セシリアはどうしたのか、と思った。
「ーー王都に来て一番落ち着く場所かもしれない」
「っ!」
バチリと二人の視線がぶつかる。
真っ直ぐ向けられた黒い瞳にセシリアはどんな顔をすればいいのかわからなかった。
落ち着けると言われて嬉しくて、誘ってよかったのだと安堵して、ウィルの抱えているだろう苦労に不安になって。
何よりも、ウィルを抱き締めたいという衝動を押さえ込むのに必死だった。
「……いつでも来て。ウィルが来たいときに」
ちゃんと笑えているだろうか、とセシリアは思う。
どうしてだか泣きそうだ。喉の下がひどく熱い。
「私、師匠のステージのお手伝いに行かなきゃいけないの。窓開けたから聞こえると思うよ。だから、ゆっくりしていって? もし休みたかったらベッドも使っていいから」
「えっ……ああ、悪い。忙しいのに、ありがとう、セシリア」
「どういたしまして」
セシリアは意識してニコリと笑い、ウィルの横を通り抜ける。狭いせいかセシリアの指先がウィルの腕を掠めた。
セシリアは気づかぬふりして、そのまま部屋を出ていく。
パタンと部屋のドアの閉まる音が廊下に響く。
その瞬間、セシリアは詰めていた息を吐き出しながら、触れた指先をぎゅっと強く握りしめた。