英雄は愛のしらべをご所望である
ウィルは暫しセシリアの出ていったドアを眺めていた。
見ていたからといって、彼女が戻ってくるわけでもないし、戻ってきてほしいかと言えば複雑だ。
なんだか、途中からセシリアの纏う空気が強ばった気がしたからである。
何かしただろうか、とウィルは考える。
ウィルとしては大したことを言った記憶がない。
確かにセシリアの言葉を受けて少し口が軽くなったのは事実だ。
ざわざわと体の奥から沸き上がってきたもの。喜びに似た何か。懐かしさにも似ている。
心が浮き足立っているような感覚を覚えた。
けれど、ウィルはそれが何か、答えを導き出せないでいる。
他者との距離をあけてきた弊害か。
とはいえ、ウィルは良くも悪くも人々に注目されて生きてきた。
無遠慮に様々な感情を向けられてはきたのだ。
そのせいでスルースキルが発達してしまったのだけど、経験値だけで言えば相当なものである。
「はぁ……わかんねぇ」
ウィルは諦めたように視線を手元に戻し、ナイフとフォークを手に取った。