英雄は愛のしらべをご所望である
そして、四年前、ライズ王国は再び隣国の脅威に晒されることとなった。
南にある隣国、メゾニエット王国が突如攻め込んで来たのである。


「ウィルって言ってたわよね? 彼の活躍のおかげで、四年続いたメゾニエット王国との戦いを終わらせられたって聞いたわ」
「じゃ、じゃあ……『黒き英雄の再来』ってウィルの事、なの?」


エゾニエット王国にライズ王国の領土を踏ませる事なく、戦を終結した! と国王が宣言したのは、つい四、五ヶ月前の事だ。


「昨日初めて見たけど、本当に真っ黒な髪と瞳をしていたものね。しかも、エゾニエット王国が攻めてきたところは、英雄の地である、セルラ伯爵領地に面した国境だもの。言われてもおかしくないわ」


鼻息荒く語るリリーの熱量に、セシリアは思わず後ずさる。

戦についてや黒き英雄の再来などの話は、度々耳にしていたが、まさかウィルと関係するとは思わなかった。
もしや、昨夜ウィル達に向けられる視線が、男女関係なかったのは、ウィル達の容姿ではなく、ウィルが『黒き英雄の再来』と言われる人物だと知っていたからか。


「うそぉぉぉおお」


セシリアは頭を抱え、しゃがみこむ。自分が思っている以上に、ウィルを取り巻く環境は、変わってしまっていたのだ。


「ふーん……寂しがってたのは、知ってたからじゃないんだ」


関心があるのかないのか、よくわからない間の抜けたラルドの声が、小さな庭に消えていった。
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