英雄は愛のしらべをご所望である
白地に金の刺繍が施され、襟や袖が赤色に染められている騎士服を身に纏ったウィルは、今までセシリアが見てきた、どのウィルとも違っていた。

風を切るように颯爽と歩く姿は勇ましく、仲間の騎士と話している時の表情は険しく鋭い。
それなのに、話しかけてくる住民に対しては、セシリアも見たことのないような柔らかく優しげな笑みを浮かべている。


「ウィルが……笑ってる」


村にいる頃、セシリアはウィルが赤の他人に笑いかけているところなど見たことがなかった。

決して満面の笑みとは言えない。それでも、僅かに細められた目元と軽く上がった口角が、ウィルの精悍な顔立ちを甘くする。色気がだだ漏れで、見ている側が恥ずかしくなってくるほどだ。

何がウィルを変えたのか。それが気になるけれど、いい変化には違いない。
ウィルと住民の交流を、セシリアは微笑ましげに眺めていた。そんなセシリアの背後から「こんにちは」と声がかけられる。セシリアは驚き、ビクリと体を揺らした。


「ごめん、驚かせたかな?」


その穏やかな声にセシリアは聞き覚えがあった。ゆっくり振り返ったセシリアは、話しかけてきた人物の姿を確認し、やっぱり、と納得する。


「シルバさん、こんにちは」
「名前覚えていてくれたんだ。嬉しいよ」


ふわりとシルバが笑うと、何だが暖かい春が訪れた気分になる。ビシッと騎士服を着こなしているが、その柔らかな物腰と顔立ちのおかげか、堅苦しく見えず、困ったことがあったら、真っ先に相談したくなるような安心感さえ感じさせた。


「先日は、挨拶もせず帰って申し訳なかったね。ウィルには声をかけろといったんだけど」
「お気になさらないでください」
「でも、気にしてただろう?」


図星を突かれ、セシリアはぐっと喉を鳴らす。
そういえばあの時、セシリアがウィルを見つめていた事を、シルバは気づいて、笑いを堪えていたはずである。

恥ずかしいことを思い出してしまったセシリアは、顔を真っ赤にして俯いた。その行為がシルバの質問を肯定しているなんて気づいてもいない。
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