英雄は愛のしらべをご所望である
「うちのセシリアが何か粗相を致しませんでしたか?」
「いいえ、大丈夫です。彼女の突拍子もない行動には慣れてますし」
「そういえば、幼い頃からの知り合いでしたね。ずっと一緒に生活していても、今だに僕はセシリアに驚かされる事ばかりですよ」


はたから見れば親しげなのに、セシリアは何故か居心地の悪さを感じた。
なんだか対抗しているようにも見える。


「お二人はずっと一緒に?」
「ええ。セシリアには僕の世話も任せてますから」
「世話も……そうですか。私はてっきりハープを習っているものだと」


ウィルの視線がセシリアに向かう。説明しろと言いたげなその眼差しに、セシリアは狼狽えた。


「し、師匠はお母さんの昔馴染みで、ハープを習うために一緒に旅をしてきたの」
「旅?」
「そう! 色々知れて勉強になったわ。師匠には全てお世話になってるから、私ができることはしないとね」
「……そうか」


納得してくれただろうか、とホッと胸を撫で下ろしたセシリアだが、何故自分は言い訳がましい言葉を並べているのかと不思議に思うのだった。


「まぁ、そんなわけで安心してください。僕、これでも君より大人だから」


パチリとウインクをしたラルドを本当に大人として扱っていいのか。セシリアは甚だ疑問である。
ウィルもそう思ったのか、眉間にしわを寄せ、ラルドを見つめていた。

ピリッと空気に電気が走った感覚を瞬時に察知したセシリアは、ラルドの腕を両手で掴み、庭の入り口へ引っ張る。


「師匠! そろそろ帰らないと! 下手したら朝方になりますよ」
「ん、そうだね」
「それじゃあ、ウィル。またね!」


セシリアは片手を振り、もう一方の手でラルドを引っ張り続ける。ラルドも軽く頭を下げると、入り口へと体の向きを変えた。

その際、ラルドとウィルの視線がバチリとぶつかり合っていたことをセシリアは知らない。
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