英雄は愛のしらべをご所望である
「……お前はどうして、そんなどうでもいいことばかり言ってるんだ」
「え? 賞賛してるんだけど」
「どこがだ」


顔が整っていると言われてもウィルは全く喜べない。
男には無駄にからまれるし、知らない女が言いよってくることも多い。これでウィルが社交的だったなら、武器の一つとして重宝しただろう。

けれど、ウィルは自ら人と関わろうとするタイプではないし、興味本位で近づかれるのは煩わしいとすら思う。


「だけど、フィスチーク家のご令嬢に気に入られたみたいじゃないか。紹介した俺も鼻が高いって副団長が言ってたぞ」


ウィルはシルバの言葉を無視するように、上着に手を伸ばすためシルバに背を向けた。

たしかにシルバが言う通り、昨夜の夜会のように顔で貴族に気に入られるのも事実で、それを活用しているのもまた事実だ。ある意味、利用価値をやっと見つけたと言ってもいい。

ウィルが騎士を目指した理由。それは、単純に自立したかったから、だけではない。村を出て、孤児としてではなく、ただのウィルとして生きたかったからだ。

ウィルは産まれて半年ぐらいの赤子の状態で孤児院の中に置き去りにされていた。
院長によれば、手紙などはなく、申し訳程度のお金だけが置かれていて、ウィルの手にはペンダントが握られていたという。ウィルという名も院長がつけてくれたものだ。

ウィルの育ての親は院長と村の人々。リャット村は小さい故かとても団結力のある温かい村だった。そこに不満があったわけではない。

しかし、ウィルは自分の現状を受け入れきれていなかった。
何故自分は捨てられたのか。何故産まれたのか。この後の自分の人生はどうなっていくのか。

本を読んでみても、大人の話に耳を傾けてみても、考えてみても、答えは一向に見つからなかった。
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