英雄は愛のしらべをご所望である
「そういえば、昨夜の誕生会には、あの店の歌い手も来ていたんだってね? ということは、セシリアさんもいたの?」
「……ああ」


ウィルの鈍い返事に気づきもしないのか、背後からは「そっかー、俺も会いたかったなぁ」とシルバの呑気な相槌が聞こえてくる。

セシリアーー白銀に近いプラチナブロンドに藤色のぱっちりとした瞳、少しおっとりとした空気を纏っているも、実際は夢見がちでかなり活発な少女。
いや、八年ぶりに会った彼女は、可憐ながら、時々落ち着き払った眼差しを見せる大人の女性へと成長していた。


「ウィルはセシリアさんのハープを聞いたことあるの?」
「まあ、小さい頃のはな」


上着を羽織り、訓練を終わりにして訓練場を後にしようと出口へ足を向けたウィルの後を、シルバは当たり前のようについてくる。
訓練はどうした、と言ってやりたくなったウィルだったが、返ってくるだろう言葉を想像するだけで面倒なのでやめておいた。

第二騎士団の王都本部は広いが、同じ小隊に所属しているが故に、ウィルとシルバの行き先は変わらない。肩を並べて歩く二人が目立つのは、二人の纏う色彩が周りよりも暗いからか。
良くも悪くも注目され慣れている二人は、周りの視線など関係なく言葉を交わしていた。


「いいなぁ。俺も今度聴いてみたい。きっと凄く素敵なんだろうな」
「……弟子についてるんだ。上達はしてるだろうしな」


そう言いながら、ウィルはすっと黒い瞳を細めた。
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