英雄は愛のしらべをご所望である
とは言え、騎士団に所属する騎士の数は多い。
王宮や王族を守る第一騎士団、王都や主要都市を守る第二騎士団、国境沿いや町に派遣される第三騎士団。これらを合わせたらどれほどの数になるか。

数が多いのだから、いろんな人種がいてもおかしくはない。貴族出身もいれば、平民出身もいるし、実力がある者もいれば口ばかりの者もいる。
そして、剣の腕にしか興味のない者やウィルに興味を持つ者も中にはいて、時々訓練の相手をしてくれた。


「仲間に入れてくれよ」


剣を振る手を止めることのないウィルに怪訝な顔一つせず、慣れた様子で横に並び剣を振り始めたシルバは、変人の中の後者にあたる者だ。

ウィルはシルバのことを変わったやつだと思っている。カーライン男爵家の次男であるシルバは、平民出のウィルから見れば、他の貴族出身者と同様、外面が良く、物腰柔らかで、所作も優雅で美しい。
はっきり言って、関わり合うような人物ではなかった。

しかし実際は、第三騎士団から第二騎士団の王都本部に配属先が変わり、知り合いもおらず、孤立していたウィルに一番最初に話しかけてきたのがシルバだった。
相手にしなかったウィルに根気強く話しかけ、現在では飲み屋に同行することもしばしば。

第三騎士団は同じような境遇の者が多く、ウィルもたまに飲みに付き合うことはあったが、畑違いの第二騎士団でもそんな相手ができるとは思わなかった。


ウィルは剣を振る手を止め、休憩を取る。早く新しい騎士服が身体に馴染むように、ときっちり白地の騎士服を纏ったまま訓練していたため、汗がなかなかひいてくれない。
ウィルは上着を脱ぎ柵にかけると、シャツの首元を少し緩めた。


「そんなに汗をかいているのに、暑苦しく見えないのは、顔が良いからかなぁ」


ヘラリと笑ったシルバに、ウィルは冷たい視線を向ける。それでも、シルバに効果はないのだ。


「ウィルの人気が高いのは、実力はもちろんだけど、纏う色だけじゃなく、その顔立ちもあるよね」


顔色一つ変えず、軽い調子で話すシルバに、ウィルは思わず溜息を落とした。
< 42 / 133 >

この作品をシェア

pagetop