英雄は愛のしらべをご所望である
「二人はさ、ただの幼馴染なの?」


シルバの唐突な問いにウィルは眉間に皺を寄せた。精悍な顔立ちのせいで迫力が増す。


「何が言いたいのか俺にはわからない」
「いや、好き同士だったのかなぁって」


今はどうかはっきりしないが、間違いなくセシリアはウィルを好きだっただろうとシルバは確信していた。


「それを知ってどうなる」
「いや、ただの興味?」


ウィルは隠しもせず盛大に溜息を吐き、疲れたように目元を手で覆った。
シルバはウィルの反応など御構い無しに言葉をかけてくる。それは幼い頃のセシリアも同じで、ある程度慣れてはいるのだが、疲れないわけではない。


「だって、ウィル。セシリアさんが『エデン』にいると知ってから、巡回するたび気にしてるよね?」
「別に気にしてなんかーー」
「いや、気にしてるって。店の近く通る時も自然と視線が向いてるし、街でも探してる」


断言するシルバにウィルは口を閉じる。正直、ウィルは自覚がなかった。決められた巡回ルートを回り、住民と言葉を交わしたり、犯罪者を捕まえたり、ただ任務を遂行しているつもりだったのだ。


「だからてっきり、ウィルはセシリアさんが好きなのかと」
「あいつはそんなんじゃない。妹みたいなもんだ」


言葉を口にしながらもウィルの脳裏に浮かんだのは、昨夜のセシリアの姿だった。
大人っぽいワンピースを身に纏いながらも、こそこそと屋敷を抜け出し、無警戒で庭を散策していた彼女。

警備兵に見つかってしまう、とウィルがセシリアの姿を生垣に隠したのは、反射的なものだった。それこそ、大人に見つからないように隠れる子供のよう。

まるで昔に戻ったような感覚は、予想外に柔らかいセシリアの感触で一気に冷める。セシリアが暴れるため、手を緩めることもできず、僅かに強張った身体をほぐしたのもまた、セシリアの変わらぬ態度だった。
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