英雄は愛のしらべをご所望である
セシリアはウィルにとって、騎士を目指すきっかけになった人物だった。きっとセシリア本人は自覚がないだろうが、将来について何も見出せていなかったウィルに新しい道を教えてくれたのだ。

セシリアの第一印象は『訳のわからないことを言うガキ』。ただその一言に尽きる。
初対面のウィルに「貴方は私の英雄様なのね!」という妄想にもほどがある言葉を口走ったセシリアを、可愛らしい女の子だと受け止めるやつが何処にいるか。

当然ながら、ウィルはセシリアと距離を置き、極力関わらないことにした。
しかし、孤児院の手伝いをしている母親に連れられやって来るセシリアは、めげることなくウィルに話しかけてくる。最初は見つからないように隠れて本を読んでいたが、隠れんぼよろしく、ことごとく見つけてくるセシリアの粘り強さにウィルは諦めた。

指定席となりつつあった木の下でウィルが本を読み、その隣でセシリアがお喋りをする。それが日常的な光景になり始めた頃、セシリアがハープを持って来たのだ。

母親に習ったのだと拙い演奏でセシリアがウィルに披露した曲が『英雄の唄』であった。
演奏後、セシリアはウィルに黒き英雄について熱く語る。その話を聞いてウィルは小さな衝撃を受けた。

平民でも世間に認めてもらえる存在になり得る。

それは小さな村で誰かの助けなしでは生きられないウィルにとって、驚くべき事で、将来の新たな可能性の一つを見つけたように思えた。

その時初めて、騎士になる、という考えがウィルの頭に浮かんだのである。

その後も、セシリアは『英雄の唄』以外にもいろんな唄を隣で歌っていた。自分で作ったという曲まであった。
ウィルの記憶の中のセシリアのハープは、そこで止まっている。
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