英雄は愛のしらべをご所望である
黒い帽子から覗く赤みがかった金髪にきりっとした眉、通った鼻筋。少しふっくらした唇は女が見てもドキリとするほど妖艶だ。
塀に隠れて背丈などはわからないが、歳はセシリアとそれほど変わらないように見える。細められた金色の瞳が色気たっぷりで、セシリアは無意識に身をひいた。


「逃げないでよ。とって食ったりしないから」
「いや……その冗談、笑えない」


自分が狙われるほど魅力的な女だとはセシリアも思っていないが、ここまで色気を放出されると身構えてしまっても可笑しくないだろう、とセシリアは心の中で愚痴る。
ラルドも強烈な色気を兼ね備えているが、何となく、ラルドは鑑賞用の色気に思える。だが、この男は彼の内側から溢れ出た本能に近いものである気がしてならない。


「でもまぁ、君が望むなら俺は構わないけど」
「……ホント、笑えない」


セシリアの勘はあながち間違いではないかもしれない。

顔をひきつらせているセシリアを見て、男はふふふ……と笑いをこぼした。セシリアには何が面白いのか、全くわからない。


「冗談はこの辺にして、その歌い手、知らない?」


その問いで、セシリアは男が客であったことを思い出す。セシリアが知らないはずはない。男が指す人物はラルドに違いないのだから。
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