英雄は愛のしらべをご所望である
何故、エデンの裏庭にいたはずのセシリア達が川縁にいるのか……セシリアは数刻前の出来事を思い出す。

塀の外側でウィルとリースが何か話しているのをオロオロとしながら待っていたセシリア。聞こえてきた声は微かで、やり取りまではわからなかったが、静かになった時点で決着したとセシリアは思っていた。

ウィルがセシリアの実力を知るはずがないので、実力を理由にすることはないと理解しているが、先ほどまでの警戒心を露にしたウィルの様子から考えても、セシリアの演奏を断ってくれると思っていたのだ。

それなのに、ウィルは開口一番に「ハープを持ってきてくれないか」と言ったのである。
セシリアはあんぐりと口を開けたまま固まったのだが、続けて「入り口で待ってる」というウィルの言葉が耳に届くや否や、我に返り自室へと駆けた。

セシリアの中で、見ず知らずの男に演奏を披露することへの不安、が、ウィルと会える口実になる、に負けた瞬間である。

セシリアはハープを取るだけでなく、急いで身なりを整えた。
ウィルに見られていないとは言え、服装を変えればリースにバレてしまう。見られるならば綺麗な姿を見られたいというのが乙女心ではあるが、あまりにも待たせて心象を悪くしたくない。

セシリアは悩みつつも、店を手伝うつもりで軽く化粧はしていたので、髪に櫛を通し直し、ハーフアップにした後、少し大人っぽいデザインのバレッタを選び、急いで入り口へ向かった。

< 65 / 133 >

この作品をシェア

pagetop