クールな王太子の新妻への溺愛誓約
ひどい傷痕を持っている上、記憶までないのだ。そんな女を妃に迎えたい人などいないだろう。
婚礼の儀はまだ少し先。今なら、この話はなかったことにできるはず。レオンはその決意を固め始めているのではないか。
マリアンヌは大変なことを言ってしまったと、激しい後悔に襲われた。かといって、言ってしまったことをなかったことにはできない。火傷の傷痕は確かにここにあるし、記憶がないことも事実。
マリアンヌは唇をギュッと噛み締めた。
「何歳以前の記憶がないのだ」
レオンはマリアンヌの目の奥を探るように、腰をかがめてじっと見つめる。
「……十二歳です。数日間、生死の境を彷徨う高熱に浮かされたそうで……」
「十二歳?」
レオンの目に閃光が走った。傷痕とマリアンヌの顔を何度も見比べる。視点が定まらず、あやうい表情だった。
「……とりあえず帰ろう」
しばらく放心したようにしたレオンは小さな声でそう告げ、マリアンヌを馬車に乗せた。