クールな王太子の新妻への溺愛誓約
ピエトーネで“マリアンヌ”として暮らしてきた七年しか、マリアンヌは知らない。“クレア”だった時の記憶がないのだから。
「レオン殿、今一度確認したいのだが」
アンニバーレがレオンを一身に見る。
「複雑な事情を抱えたマリアンヌを、それでも妃として迎え入れる気持ちに変わりはないか」
ひと言ずつ確かめるようにゆっくりと問う。
レオンは姿勢を正し、「はい」と力強く答えた。
「彼女がクレアなら、なおさらです」
「……と言うと?」
「実はクレアは許嫁だったのです。幼い頃から何度となく国を行き来し、妹のようにかわいがっておりました。当時から愛くるしい少女でしたが、大人の女性に成長した美しいマリアンヌいえ、クレアの明るさに随分と助けられました」
レオンは、彼女がフィアーコに来てからのことを回顧していた。
その隣で呆然とするマリアンヌ。
中身が変わったわけではないのに、突然クレアという見知らぬ人になってしまったことが受け入れられず、レオンの言っていることも耳を素通りしていく。
(私はどうしたらいいの……?)
不意に急激な目眩に襲われ、マリアンヌはその場にうずくまった。
「――大丈夫か!?」
レオンが咄嗟に彼女を抱き留める。
マリアンヌはそれに頷きながらも、遠ざかる意識を留めることはできなかった。