クールな王太子の新妻への溺愛誓約
レオンの瞳が切なく揺れた。
「……そうだな。でも無理することはない」
おそらくレオンは、マリアンヌを気づかってそう言ったのだろう。だが本心では思い出してほしいに違いない。亡くなったとばかり思っていた大切なクレアが、七年の時を経てこうして目の前にいるのだから。
「いえ、無理したいのです。レオン様との思い出を忘れたままなんて、あまりにも悲しすぎますから」
「思い出はこれからふたりで作っていけばいい」
レオンの優しい眼差しがマリアンヌを包み込む。レオンは右手を伸ばし、マリアンヌの頬に触れた。一瞬だけ肩を弾ませたマリアンヌを見て、レオンが目を細める。
マリアンヌはレオンの優しさが嬉しかった。
それでもやはり、過去のものも諦めたくはない。覚えていないから余計に知りたくなる。
レオンとクレアがどんな会話を交わしていたのか。なにに笑い合ったのか。
雲に隠れていた満月が、再び姿を現す。
存在を消し去っていた辺りの光景が、ふっと浮き上がっていく。月の白い光を浴びたレオンは、幻想的なバラ園を背景にしてさらなる美しさを放った。