クールな王太子の新妻への溺愛誓約

レオンの瞳が切なく揺れた。


「……そうだな。でも無理することはない」


おそらくレオンは、マリアンヌを気づかってそう言ったのだろう。だが本心では思い出してほしいに違いない。亡くなったとばかり思っていた大切なクレアが、七年の時を経てこうして目の前にいるのだから。


「いえ、無理したいのです。レオン様との思い出を忘れたままなんて、あまりにも悲しすぎますから」

「思い出はこれからふたりで作っていけばいい」


レオンの優しい眼差しがマリアンヌを包み込む。レオンは右手を伸ばし、マリアンヌの頬に触れた。一瞬だけ肩を弾ませたマリアンヌを見て、レオンが目を細める。

マリアンヌはレオンの優しさが嬉しかった。

それでもやはり、過去のものも諦めたくはない。覚えていないから余計に知りたくなる。
レオンとクレアがどんな会話を交わしていたのか。なにに笑い合ったのか。

雲に隠れていた満月が、再び姿を現す。
存在を消し去っていた辺りの光景が、ふっと浮き上がっていく。月の白い光を浴びたレオンは、幻想的なバラ園を背景にしてさらなる美しさを放った。

< 149 / 286 >

この作品をシェア

pagetop