クールな王太子の新妻への溺愛誓約
「庭にバラ園があるの?」
そういえば、馬車を降りた時に香しい匂いが鼻をかすめた記憶がある。あれはバラの香りだったのか。
「はい。レオン殿下がたいそう手をかけてお育てになっているとか」
「……レオン様が?」
マリアンヌは意外に思ってしまった。マリアンヌの母であるヴァネッサもピエトーネの王宮では様々な花を育てているが、彼女は見るからに慈愛に満ちており、いかにも花を大切にしている素振りが見え隠れしているから。第一印象が冷たいものだったレオンが、花を愛でるような人間とは思えなかったのだ。
ベティが「さようでございます」と答える。
そうなると、今日のレオンの態度はやはりたまたまだったのかもしれない。マリアンヌは、自分の考察をさらに深めた。
(いつもはきっとお優しいんだわ。花を愛する人が冷たいはずがないもの。明日、お会いできたら、改めてご挨拶しよう)
そんなことを思いながら、ベティが淹れてくれたお茶に口を付ける。
「おいしい」
「お気に召していただけたようでよかったです」
ベティは嬉しそうに笑った。
バラ特有のかぐわしい香りが鼻から抜けていく。まだどんな人物なのか掴めないというのに、マリアンヌはレオンが丹精込めて育てたバラだと思うと余計に心が温かくなる思いがしたのだった。