クールな王太子の新妻への溺愛誓約

「あのね、昨夜ふと目が覚めたら、パイプオルガンの音が聞こえてきたの」

「私の耳には届きませんでしたが」


ベティはそれすら信じようとしてくれない。目に猜疑心が見え隠れしている。

マリアンヌはそれを気にせず、昨夜あった出来事を正直に話して聞かせた。レオンと一緒だったというのは、ベッドの上ではないと。

ベティは最後まで聞いてようやく疑念が晴れたようで、ホッと胸を撫で下ろした。


「マリアンヌ様がはやまったことをされなくて本当によかったです」

「結婚前にそんなことはしないわ」


そもそもレオンはマリアンヌにそこまでの感情はないだろう。このまま婚儀の日を迎えるならば、レオンは形式的にマリアンヌを抱くだけ。世継ぎ誕生のためだけに体を合わせることになるのだろう。

そう考えると沈み込みがちになる気持ちは、幻のごとき一瞬のレオンの笑顔を見られたことを思い出し、あっという間に建て直した。


「少しずつ距離を縮めておられるようですね。さすがはマリアンヌ様」


ベティがどこか誇らしげに胸を張る。

ただレオンが笑顔を見せてくれたことは、ベティには黙っていた。今はまだ自分ひとりの秘密になんとなくしておきたかった。そのくらい素敵な笑顔だったのだ。
思い出しただけで鼓動が速くなる。胸に手を当てるだけで脈打つのがわかるほどだ。


「では、参りましょうか」


いつもの様子に戻ったベティを引き連れ、朝食の間に向かった。

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