わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

「ね、早くどこか入ろうよ。いつまでここにいる気?」

姫も寒そうに、両腕を胸の前できゅっとクロスした。

背の高いジョンが、姫の背中にさっと手を回してエスコートした。
ジョンの左隣で、姫は彼を見上げると微笑んだ。
ジョンの大きな手が触れている背中があったかい。

ふたりは木枯らしの中、寄り添って駅とは反対方向へと歩き始めた。

これから、サルサという名の疑似恋愛が始まるのだろうか。
それとも、本当の恋愛が始まるのだろうか。

それは、まだ誰にもわからない。



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