不機嫌なジェミニ

その2。新人賞のオトコ。

「トウコちゃん、もう、帰るの?」と私の手を握って離さないオトコ。

ローマのアルテミス、本社。

『NEOWAVE jewelry contest』の新人賞を取ったオトコだ。

「帰りますよ。また、明日よろしくお願いします」と私がやんわりと手を外して微笑んで歩き出す。

こんなところをジンさんに見られたら大変だ。


「ご飯、一緒に食べようよ」
と私の後ろを歩いて付いて来る。

「〇〇さん、イタリア語得意じゃないですか?
アントーニオさんとかと一緒に行ったらどうですか?」

「そんなに冷たい事、言わなくっていいじゃん。もう少し、話したいだけなんだから…」

とブツブツ言いながら、私の前に回り込んで来る。

もう、ジンさんが車で迎えに来る時間だ。

私が迷子にならないためと、
こんな風にこのオトコにつきまとわれないためと言って、毎日送り迎えをしてくれているのだ。

私は大丈夫なんだけど、ジンさんには会わせたくない。

「もう、帰ります。
また、明日。」

と言うと残念そうにため息をついて、
キュッと私の肩を抱いて、

「じゃあ、
また、明日」と言った途端、


「おまえ、俺の妻に何してる?!」
怒気を含んだ低い声が、オトコの後ろから聞こえた。






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