不機嫌なジェミニ

色々頭を悩ませながらベッドルームから出ると、
広い明るいリビングにつながるダイニングに朝食が用意されているところだった。

「おはよう。藤野さん」とテーブルで新聞を読んでいるのはレンさんだ。
「レンさんお早うございます。」と慌てて頭を下げると、

「お早う、熱は下がった？」
とキッチンから野菜スープをトレイに乗せて出てくるのは、
レンさんの秘書をしている山岸恭子さんだ。
背の高く、モデルさんのようにスタイルがよい、美しい人だ。
いつもはアップにしている髪を下ろし、柔らかそうなワンピースを着て、
今日はとても女らしい印象だ。

「…山岸さん、おはようございます。」と私が驚くと、

「トウコ、恭子ちゃんが、朝食用意してくれたから、一緒に食べることにしたんだ。
恭子ちゃはレンの婚約者。まだ、公になってないけど…」と言いながらジンさんは私をテーブルに付かせる。

私の前には卵粥と野菜スープ。
皆さんの前にはスクランブルエッグとベーコンとトーストに野菜スープだ。

「ごっ、ご迷惑かけてすみません！」と頭を下げると、

「いいのよ。ジンさんとトウコちゃんがこんな事になってるなんて知らなかったから、ちょっと驚いたけど、
トウコちゃんとなら私は仲良く出来そうだし…さあ、いただきましょう」
と山岸さんはにっこり私に微笑みかけてくれる。

こんな事って？

「あ、あの、私が熱を出してしまったから、ジンさんが連れて帰ってくれただけで…
その、…ジンさんと私は…あの…誤解をしているようなら…」

「トウコ、いいよ。冷めないうちにいただこう。
それに…わかってないのはおまえのほうだから…」とジンさんは機嫌の悪い声で食事を始める。
私はジンさんの機嫌の悪い声にビクッとしてしまう。

「ジン、この子大丈夫？随分とお子様だけど…」とレンさんがくすんと笑う。

「しょうがねえだろ。トウコはまだ21歳だし…」ジンさんは機嫌の悪い声のままだ。

「年の問題じゃないような…」

「口出すなよ。」

「いや、…面白いものが見れれそうだな。」とレンさんがクッと喉の奥で笑う。


「ふたりとも、ちゃんと食べて。」
と恭子さんがあきれた声を出し、双子は一緒に野菜スープのスプーンを手に持った。

やっぱり双子は食べる順番も同じなんだ。と感心したけど、
会話の内容としては
私が子どもすぎるって内容だったのかも…と少し落ち込む。

「…で、デザインも子ども過ぎますか？」と私が小さな声を出すと、

「おまえのデザインは気に入ってる。さっきの会話は忘れて飯を食え。」
とジンさんは私の髪をくしゃくしゃと撫でる。

「…はい」と私は大人しくスプーンを握り、いただきますと呟くと、

レンさんと恭子さんが私の顔を見て微笑んだ。