不機嫌なジェミニ
18時半。私のバイトの終わる時間。

ジンさんは戻って来ていない。

今日はイタリアンを予約したって、石窯のピザが食べられるって言っていたのに…

私が肩を落として帰る準備をしていると、セイジさんが

「僕と、一緒にご飯食べに行く?」と私のそばに立つ。

私は首を横に振り、

「ジンさんと約束しているから…」と俯くと、

「わかってるよ。でも、ジンさんは帰って来ないかもしれない。」

「…」私はもう一度首を横に降る。

「こんな事が…またあるかもしれないよ。
ジンさん、大人だし、モテると思うから…」

「…わかってます。今日は帰ります。
お先に失礼します。お疲れ様でした。」と涙を堪えて頭を下げていると、

カツカツとヒールを鳴らしながら、蘭子さんが現れて、

「間に合った。トウコちゃん。ご飯行こう。
ピザ食べさせてやってくれって、ジンに頼まれてるの。」と私の手を掴んだ。

「え、でも…蘭子さん…」

「ジンの奢りで贅沢なご飯。って私もラッキーでしょ。
さ、行こう。お腹空いちゃった。」

「ジンさんは…木村さんと一緒ですか?…」と小さな声で聞くと、

「違うわよ。『アクエリアス』で会議。
6月にアメリカで開かれるコンテストに出す予定だった
『暁』が社外に漏れていたんだから…大変でしょ。
このままコンテストに参加するか検討中。って事。」

そうなんだ…
そういえば…そうだよね

私ったら…木村さんとジンさんの関係ばかり気になって…

社会人としてどうなのよ。と私は思い切り自己嫌悪に陥りそうだ。
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