不機嫌なジェミニ
「ねえ、トウコちゃん、ジンさんと付き合うことにした?」と前に座っている瞳さんは私に顔を近づけて聞く。

私とジンさんって付き合ってるんでしょうか?

私が顔を赤くして頷くと、

「良かったー。ジンさん、随分と年上で上司だから…ってトウコちゃんに出会った頃は少し悩んでて、
ムサシ君に背中押されてたのよ。
『ジンが悩んでもしょうがないだろ。選ぶかどうかはトウコちゃんの問題だから…』って」とニコニコ笑う。

「…こんな子どもの私でいいんでしょうか…」と思わず言うと、

「そういうことは俺に聞いたら」とジンさんにくいっと顎を掴まれ、ジンさんの方に振り向かされる。

き、聞こえてた?
みんなの方を向いていたから私達の会話は聞こえてないと思ったんだけど…

「トウコ、一昨日も言ったけど…
最初からただのオトコとしてトウコが好きなんだよ。
しょうがねーじゃん、最初に寝顔みて連れて帰りたいって思ったんだから…」

「へ?」

「『マッキンレー』で眠ってただろ。起こさないと面接に遅れるって思ってんだけど、
妙に可愛い寝顔でさ。ギリギリまで寝かせておいた。」

「み、見てたんですか?…」

「結構。デザイン画見ててもちっとも起きなさそうだったし…」

…そ、そうなのね
恥ずかしい。


「ジンも柔らかい顔でさ、絶対惚れたな。って俺も思ったもん。」とマスターが笑う。


「俺がトウコちゃんに会う前にジンさんはトウコちゃんに惚れてたって訳ね。…」とセイジさんがため息を付いたのに目を向けると、

みんなが興味シンシンで聞き耳を立てていたみたいだ。


「無理だね。セイジ。失恋でしょ」と蘭子さんは華やかに笑う。

「なるほどねー。ジンさんがトウコちゃんを口説き落としたところなんだー。
だから、販売の人達知らなかったんだね。
ま、でも、さっきわかってイッキに広がりそうだねー」と今日出会ったばかりの同僚たちは納得したようで、

「食べたら、帰ろうか?
まだ、月曜日だし…」と結城さんが言うと、

そうだね。ジンさんご馳走様でした。
と口々に言って料理を平らげ、帰り仕度を始めた。


イッキに広がるって…
ジンさんと私が付き合っているってことが?

それって

ジンさんが

困りませんか?


と、私は少し心配になって新入社員と挨拶を交わす笑顔のジンさんの横顔をみつめた。



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