クールな部長とときめき社内恋愛
藤麻さんが忘れ物をするなんて意外。仕事のときは結構しっかりしているように感じていたから。

一時過ぎには指定された場所へ届けたいけど、間に合うだろうか。
自分の足元をチラッと見て、今日は低めのヒールだから大丈夫かなと思ったわたしは、歩道を走りだした。

歩いている人たちの視線がチラチラとこちらに向いて恥ずかしいけど、気にしてはいられない。
駅へと着いて改札を通り、ホームまで早足で向かったわたしは、ギリギリで発射前の電車に乗ることができた。

少し走っただけなのに息切れがひどいのは、間違いなく運動不足。蒸し暑くてじんわりと汗をかいてきたし、髪も乱れているけれど、見た目なんてもうどうでもいい。とりあえずこれで藤麻さんのところへ早めに着くことができる。

五つ目の停車駅で降りたわたしは、急いでエスカレーターを上って改札を出た。そして周りを見渡し、駅の出入口近くに藤麻さんがいるのを見つけた。

「藤麻さん!」

柱のそばに立って腕時計をちらっと確認した藤麻さんに向かって声をかけながら走っていくと、顔を上げた彼は驚いた表情をしてこちらを見る。

「あれ……思ったより早いな」

「だ、だって、大事な書類だし、先方を待たすわけにはいかないと思ったので」

息を切らしながらそう言って書類の入った封筒を差し出すと、彼はそっと笑って受け取った。
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