クールな部長とときめき社内恋愛
「なぁ、俺とデートしよう」

突然の言葉にピタリと足を止めたわたしは、振り返って目をぱちぱちさせる。

デート……? 藤麻さんとわたしが?
からかい交じりの冗談だと思って次の言葉を待つけど、相手もわたしの返事を待っているようで黙っている。

「……あれ、冗談だと思われてる? 結構本気で誘ってるんだけどな」

目を細めて魅惑的な表情をする藤麻さんに、胸の鼓動が高鳴りだした。けれど、わたしは彼から顔を逸らす。
どうしてわたしなんかをデートに誘うのだろう。

本気って、なに? 誘ってもらえて嬉しいって、純粋に喜んでしまいそうになるわたしの想いとは別だよね。

藤麻さんにとってただの暇つぶしに出掛けることでも、わたしは期待をしてしまう。
だから、きっぱり断ったほうがいい。そう思う、けど……。

自分の気持ちがはっきりせず返事ができないでいると、彼がわたしのそばにやってきた。

「元カレのこと、そんなに忘れられないのかよ」

「……え?」

わたしを見下ろす藤麻さんはどこか怒っているように見える。すぐに返事をしなかったから、苛立ったのだろうか。

新しい恋をはじめる勇気がないって思っていたけど、少しずつ藤麻さんに惹かれているのは自覚している。でも結局、行動するのに迷って不安になってしまう。

期待をするのが怖いんだから、簡単に誘いを受けることなんてできない。

そして、藤麻さんが怒ったような顔をする意味もわからない。

整理がつかなくなったわたしは、なにも言えないまま藤麻さんに背を向けて早足でその場から離れた。
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