クールな部長とときめき社内恋愛
そう思って彼のほうをちらっと窺ってみたけれど、淡々とパソコンを操作していた。
話しかけてもらえることはあたりまえではないってわかっているはずなのに、待ってしまう自分にため息がでる。

ずっと見つめているわけにもいかないので、デスクの上を片付けたわたしは周りに挨拶をしてオフィスを出た。

帰り道、駅前を歩きながら元カレのことが忘れられないのかと聞いてきた藤麻さんの言葉を考えていた。

晃久さんとはわたしが大学生のときに知り合ったから、彼が有名ショッピングモールの重役だということをあまり意識していなかった。

彼は自分の立場を自慢するようなことはなかったし、働いている会社で『シャイン』の名前を聞いたりしても晃久さんのことを思い浮かべる程度で、彼が御曹司ということも気にならなかった。

だけど今思えば、自分のことをあまり話すような人ではなくて、仕事や家族のこともほとんど話さなかったから、わたしとはとにかく“ただの恋人同士”でいたかったのだろう。

それは愛情というわけではなく、上辺だけの関係だったのかなって、考えると切なくなってしまう。でも受け止めて、悲しい気持ちも楽しかった思い出も少しずつ手放していきたい。

そんなことを考えながら歩いていたらいつのまにか駅が遠くなっていて、はっとしたわたしはくるりと体の向きを変えて来た道を戻る。

この辺りは晃久さんとよく食事をしたレストランがあって、最近は近づかないようにしていたのに……。
< 80 / 151 >

この作品をシェア

pagetop