昼下がりの情事(よしなしごと)
「一枚しか用意してないからね。書き損じのないようにしてくれよ」
そう言って志郎は笑ったが、メガネの奥の目は笑っていなかった。
「……美咲とは、子どももいないし、今さら揉めたくもないから、最後にこれだけ、確認しておくよ。僕は、君と美咲の不貞行為に対する慰謝料を求める気はない。その代わり、美咲も僕に対して財産分与を求めない、ということで……」
志郎は魚住の目を見た。
「……いいよね?」
魚住は肯いた。
「証人の欄はそちらで見つけて、書いておいてくれ。だれでもいいよ」
そう言うと、志郎は帰り支度を始めた。
「一人は決まってますよ……おれです」
魚住の言葉に苦笑しながら、
「どうぞ、好きなように……」
そう言って、志郎が腰を浮かせると。
一足先に、魚住がすくっと立ち上がっていた。