不器用な僕たちの恋愛事情





三連休を利用し、大阪の2DAYSライヴを終え、A・Dは移動の車中にいた。

まだ、新幹線などの移動手段は避けているので、時間のロスは大きいが、ワゴンで移動するのももう慣れたものだ。

筒井と謙人が交代で運転をし、今は筒井の担当。

土日祝日を利用して地方ライヴをこなし、収録のみの音楽番組に出演している。

コメントは音楽に関することのみ。

何とかして真相を聞き出そうとする者もいるが、謙人と晴日がうまく煙に巻いて笑いに変えてくれるので、十玖としてはかなり助かっている。

相変わらず話すのは苦手だ。

ライヴ中は三人に構われて、言葉を引き出される感じで喋るけど、それ以外で十玖にコメントを求めても無表情、無言で見入られると、大概が挫折する。

十玖のコミュ障は、もはや周知の事実だ。

ある意味、彼らの作戦勝ちである。

これが生だったら完全に放送事故だが、しかしながら映像、ライヴ共に好評だ。

「フォロワーが増えたぞ」

タブレットで公式SNSを確認している晴日が、ニヤニヤ笑ってる。

そう言えば先程から何やらやっていた。

どれどれ、と覗き込んだ謙人が吹き出し、続いて竜助が吹き出した。

何やら楽しそうである。

三人が揃って楽しそうな時は、得てしてロクなことがない。

「また何かやりましたね」
「なに。他愛のないことよ。十玖の半日を追って、まとめてアップしてみた」
「暇なんですね」
「ファンサービスよ。見てみるか?」

タブレットを受け取り、十玖は絶句する。

隠撮りで顔の写ってないものもあるが、昨夜のライヴ後から今日の昼食まで時系列で並んでる。しかも昨夜のチェックイン後すぐの写真はほぼコマ送り。それも全てにコメント付きだ。

「ストーカーですか?」
「照れるなぁ」
「いや。褒めてないですから。てか僕のプライバシー」

コマ送り写真は問題有りだ。

十玖の眉間に皺が寄り、額の血管が微かに浮き出てる。

「…何ですか、コレ」
「あ? トークのストリップ。一番反応が良いんだよな。パンツまでで止めといたけど」
「当たり前です。それ以上アップしたりしたら、二人とも美空に処刑されますよ」

これだって充分ヤバイ。

「このコマ送り消して下さいよ。マジで」
「え~~~。ヤダ」
「ヤダじゃないですから」
「フォロワー増えたのに」
「邪道でしょう」
「邪道の何が悪い。なあ謙人」

晴日が謙人に振った流れで彼を振り返れば、今度は謙人がムービーを撮ってるし。

十玖がガックリとうな垂れた。

「大人しいと思えば、今度は謙人さんですか」

竜助に期待などしてないが、ちょっとくらいは止めて欲しい。たとえ本心じゃないとしても。

「兄貴どもにイジられるのは、末っ子の宿命。諦めなさい」
「だよねぇ。筒井マネ」

ケラケラ笑う筒井に賛同する謙人と竜助。

それすらも撮影続行中だと思い至り、十玖はぐっと押し黙った。

竜助は、撮影中のスマホの前に脇から顔を出し、

「トークがイジケたんで今日はここまでという事で。でわでわ」

ニヤニヤしながら手を振り、そこでやっと停止した。

謙人は十玖の邪魔が入る前に、さくさくと動画をアップしてる。

(やっぱアップするんだ……もおいいけど)

ムスっとしてると、晴日が頭を捏ね回す。

「何ですか?」
「お前ってさ、どんな奴か解りづらいじゃん。美空の事で一部分だけが大きく広まっちまった感あるし、実はこんな奴なんだよって、知ってもらいたいじゃんか」

「それでパンツは如何なものかと」
「だからそこは気にすんなって。まあちゃんとラストまで見てやってよ。俺のお勧めは、ベッドの脚に小指ぶつけたとこかな」

(別に晴さんのお勧めなんか、どうだっていいんだけど)

ムッとしながらタブレットをフリックしていく。

一枚一枚脱いで行く後ろ姿。脱ぎ捨てた服を畳もうとベッドに近付いて、迂闊にも小指をぶつけた。痛くて身悶えてた時が晴日のお勧めらしい。

パンツ姿から間があって、浴槽で居眠り、バスローブでベッドに倒れ込んで爆睡、起き抜けの呆けた顔、朝の日課のストレッチ、メンバーとの何気ない写真があって、最後は自分でもすこぶるいい笑顔だと思う写真で締めくくられていた。

「それ。最後の。美空と電話してる時の。いい顔だろ?」

昼前に電話した時だ。

(こんな顔してるんだ)

もうすぐ会えると話してる時だったと思う。

萌が美空を訪ね、受験勉強のストレスを散々うだうだして発散し、晴日の文句を言いまくっていた割には、会いたそうにしているので「Mに目覚めちゃった?」とか本気で心配するから、美空が可愛くて思わず笑ってしまった。

「あ~。そう言えば、晴さん。萌が会いたがってるみたいですよ」

思い出したから、何の気なしに言ったのだけれど……。

晴日の予想外の反応。

謙人も竜助も、もちろん十玖も目を見張った。

晴日は豆鉄砲を食らった顔をしながら、耳まで真っ赤だ。

「あ~…うん。やたら構ってたね」

と謙人。

「シスコンからロリコンに路線変更か…?」

と竜助。

「マジですか? 悪い子じゃないけど、クセ強いのに」

と十玖。

「なにハル。萌ちゃん好きなの?」

筒井のストレート。

晴日はしばし考えて、みんなを見渡した。

「――――そうかも」
「そうかもって自覚なかったんかい」

今までの女性遍歴を知ってる竜助が、呆気に取られてる。

確かに最近大人しかったようだが。

「クーちゃんが手を離れたら、もっと手の掛かる子選ぶとかって、どんだけ構いたがり?」

呆れるを通り越して、感嘆すらしてる筒井。

間違ってないけど、歯に衣着せない筒井に苦笑する十玖。

「十玖。今日萌は?」
「さあ。メールしてみたらいいんじゃないですか?」
「そっか。そうだな。筒井マネ。何時頃、到着予定?」
「そうねぇ。流れ悪いし、二十時近くなるんじゃないかしら」

晴日はスマホで時間を確認し、ため息をつく。

十七時を少し回ったばかり。

すぐに萌にメールを送って、液晶を睨んだまま返事を待つ。と、一分も待たずに返信が来た。

晴日は不機嫌な顔をして、十玖を見た。

「十玖は絶対に美空に会いに俺んち寄るはずだからって、美空と一緒にいるらしい」
「良かったじゃないですか。…なんで睨むんですか?」
「だから何で十玖なんだよ」
「いつもの事じゃないですか。いまさら」
「おもしろくない」
「と言われても」

ささやかな反論に出たら、晴日はヘッドロックを仕掛けてきた。

「美空といい萌といい、何でいつも十玖なんだ?」
「知りませんよ」
「自覚したらやきもち全開って、らしくないな。もっとも今までの女は、年上の後腐れのないのばかり選んでたもんな」

ニヤニヤ笑う竜助。

ぐっと言葉に詰まる晴日。

「そこのコマシ。年上女とはちゃんと手を切りなさい。でなきゃ今度は萌ちゃんがトラブルに巻き込まれるわよ。いいわね?」

「わあってるって」
「年上女、甘く見てると怖いわよ。特に切羽詰まってるのは」
「肝に銘じま~す。あ、筒井マネ。ボコられたらヨロシク」
「一体何人いるのよ」
「連絡してるのは、三人? でも最近、大人しくしてるっすよ」

筒井は聞えよがしのため息をつく。

「相手を淫行で訴えなくて済むように、穏便に済ませてよね。ケントもリュウも未成年なんだから程々にね」

二人は気のない返事をしてるが、一番の問題児はメールに忙しいようだ。

謙人はチラリと十玖を見、筒井に視線を送る。

「十玖の心配はしなくていいんですか?」
「トークみたいな堅物には要らぬ心配でしょ」
「えー何それ。俺も結構一途ですよ」
「はいはい。そうですか」

ホントなのになぁ、と独りごちても薄笑いを浮かべてる辺り、気にしてないのか。

目が合った謙人が、首を竦める。

結構みんなやる事やってんだな、と十玖は妙な感心を抱く。

それと同時に自分には無理だとも。

早く美空に会いたい。

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