不器用な僕たちの恋愛事情


 新年を迎え、二日に松下家で恙なく結納が執り行われた。

 二週間足らず後、センター試験で上々の結果を得た謙人は、二次試験に向けて問題なく取り組むこととなり、そしてその翌週には婚約披露パーティーが行われた。

 大手企業同士の孫たちが婚約した話題は、大きく取り上げられた。

 それだけでも大変なのに、謙人がインディーズ・バンドの活動している事、そして昨年の夏に話題になったバンドであることも取り上げられ、A・Dの周りも騒がしくなった。

 やっと落ち着いた美空の心を搔き乱す話題が再燃したことに、謙人はひどく心を痛めたようだったが、犯人たちに判決が出たこともあり、思いの外美空は落ち着ていた。

 むしろ十玖の方が心配だ。ますます過保護になっている。

 新学期早々、話題の人となった謙人の新聞記事を見ながら、苑子は「大変ねぇ」としみじみ呟いた。

 新聞には企業概要の他に、会長同士の絆と婚約に至った経緯、謙人と佐保のプロフィールが事細かく書かれている。

 大きく掲載されている写真は、とてもお似合いの婚約者同士だ。

 一部週刊誌やメディアでは、政略結婚などと知ったかぶった事を言っていたりするのだが、当人たちは「言わせとけば」とどうでも良さそうだ。

 メディアで取り上げられる度A・Dの楽曲が流れるので、「いい宣伝だよ」と謙人が言った通り、CD、ダウンロード共に売り上げは上がっている。

 SNSでは、ケントファンの嘆きと佐保バッシングが日々更新されている。

 その佐保は、日本の大学に編入手続きをするため、留学先のロンドンに戻ってしまったので、実質的被害はないようだ。

「で、実際どうなの、この二人。仲良さそうに見えるけど」

 寄り添って笑顔を見せている。

「長年連れ添った夫婦? そんな感じ」

 写真を覗き込みながら十玖が言った。

 クリスマスの時の不穏さが嘘のように仲が良かった。

「大人しいお嬢様だと思ったら、楽しい人だったよ。謙人さんと言い、佐保さんと言い、何かビックリ箱みたいな感じだった」

 美空は思い出し笑いをし、十玖も「確かに」とくすくす笑う。

「ビックリ箱?」
「とんでもないこと言いだしたり、やり始めたり?」
「記事通りの人ではないよ。ビックリ箱から飛び出して、驚かせて楽しむタイプかも」

 一見清楚でおしとやかな雰囲気を持っているけれど、もし見たままの人だったらきっとA・Dには馴染めなかったと思う。

 ガンガン行くタイプのメンバーだから、一緒に走れる根性のある子か、それを気にしないで見守れる人じゃなければ、置いてけぼりになってしまうだろう。

 美空は一緒に走る子だし、佐保も黙って見守るタイプではなさそうだ。下手したら先回りして手を振ってるかも知れない。

 共同購入すると言い出した時の満面の笑顔を思い出す。

 自分がどう影響を与えるか知った上での行動。

「謙人さんにお似合いだった」
「そっか。でもこれからA・Dも大変になりそうだね」
「う~ん。でもやるしかないから」

 いろんな意味で。

 入学したばかりの時は、想像もしなかった。

 どこまで行くのだろう?

 やっぱり想像もつかない。

 それでも彼らとどこまでも走って行くんだろう。


 
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