遠い昔からの物語

◇第二話◇


玄関先には、国防色の国民服を着て、足にゲートルをしっかりと巻きつけた、二十歳くらいの青年が立っていた。

「……間宮(まみや) 廣子さんはおられますか」

奥の部屋から姿を現した、白いブラウスに(かすり)のもんぺ姿のわたしに、その人は帽子を取りながら尋ねた。

従姉(いとこ)を訪ねてきたみたいだが、見たことのない顔に、わたしが(いぶか)しげな顔をしたら、

「僕は、廣子さんの夫の間宮 義彦(よしひこ)の弟で、寬仁(ともひと)と申します」

と、慌てて云った。

「召集令状が来て、来月、予備学生(学徒兵)として陸軍へ入隊することになったので、お義姉(ねえ)さんにご報告に参りました」

今度はわたしが慌てる番だった。

これからお国のために兵隊さんになろうという人に対して、立ったまま応対していたわたしは、

「廣子の従妹(いとこ)で、佐伯(さえき) 安藝子(あきこ)と申します。東京から疎開してきたばかりで、こちらの様子がわかりませんもので、失礼致しました」

そう云いながら、もんぺの膝を折ってすぐさま床の上に正座し、

「この度は、御出征おめでとうございます。
武運長久、お祈り申し上げます」

と、手をついて頭を下げた。

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