遠い昔からの物語

◇第十四話◇


「……くそっ」

突然、彼が舌打ちをした。

「……先刻(さっき)まで、あがぁに元気じゃったっちゅうんに」

彼は悔しそうに呟いた。

「どうしたの」

わたしは、自分に覆いかぶさる彼の顔を見上げた。

何処(どこ)に挿れたらいいのかわからなくて、ちょっと焦ったら、急に萎えてしまった……まいったな……」

彼は途方に暮れていた。
どうやら、彼も、このようなことをするのは初めてらしい。

わたしは、思わずふっくらと微笑んだ。

「せっかく、安藝子(あきこ)を妻にできるっていうときに……おれは一体、なにやってんだ……」

彼は全身の力が一気に抜けたみたいだった。

そんな彼を、わたしはやさしく抱きしめた。

「わたしは、もう……寬仁(ともひと)さんの妻よ」

彼……寬仁の耳元でそっと囁いた。

< 216 / 230 >

この作品をシェア

pagetop