貴方の夫が雪女に捕まっていたら
(2)
 ベラベラしゃべる夫は正直すぎて腹だたしい。正直と嘘をつくところが真逆だ。悪党は墓場まで嘘をもっていけるが、小心者がたまにウソをつくと、ホラ、妻が泣くことになる。

あれから、アッという間にかなりの時間がたったがほとんど眠れず、よく今日までいきていたとおもう。
奈津子は夫に相手の雪女に電話をさせ、メール交換もしたが、雪女は一目散ににげまわるだけだった。狡猾なこと。

「いつも自分らは三人だった。既婚未婚かんけいなかった。ウチはなんでも夫に話し、了解も得ていた。なぜ上司は奥様の了解を得ていなかったのだ。私は奥さまが一緒でもかまわなかったのに。私は上司の誘いを断り切れませんでした。謝罪はしない、私はぜったいわるくないから」

 女性ならいつも男性から軽く誘われてはいるけど、やんわりと断って社会の秩序をみださないように配慮しているのだ。それが大人の女というものだ。まさかいい年をしてしらないはずはなかろう。

それにこの5年間に夫から雪女へ、月一で景色を撮った写真とコメントメール、それへのお返し、その他、仕事メール、街歩きの計画やり取りメール、ETC。かるく、100位。多分二人のPCはこういう悪だくみメールでいっぱいだったろう。本当のことを言っていたら、向こうの夫もだまってはいられなかったろう。この事実をどう釈明するのだ。

 互いに子育てや、姑の苦労をした女同士なのにいい年をして私の夫を盗ってたうえ、さらに最初、自分からさそっておいて、いまさら逃げるなんて女の敵だ、許せない。自分にも夫がいるんだから、せいぜい自分の夫に街歩きくらいつれて行ってもらえよ。おいおい、何でもはなしている清廉潔白な夫婦関係なんだろ。その立派な夫をだしてみろってんだ。

しかし、雪女は夫はおろか、自分も
「私実は癌で病気なんです。もうこれでメールはしません」

といってさっさと奥に隠れてしまった。病気は可哀そうだが、奈津子だって元気ではない。おかげでこのところすごく不調だ。第一がん患者なら、人の夫にあまえて、人の家庭をこわすようなことはせず、自宅でじっと静養をしていろよ。既に孫もいるんだろ。

奈津子の夫は雪女の最後のメールを見て

「彼女、癌か、オレはがん患者を相手にしていたのか」

おいおい、その眼はなんだ?何を考えている。又雪女に同情しているのか、少しは自分の妻の心配でもしたらどうかい。

夫が急に逆上して
「御前が雪女だ。おれと結婚してこどもを産み、終始見張って最後は俺を殺す気か」

おいおい、雪女は己之吉を殺しはしない、子供を預け最後は自分が出ていくんだよ。ちゃんと読みなさい。だいいち雪女につかまってさんざ利用され、生気を抜かれたのアンタだし、抜け殻になったアンタをアタシが命がけで奪還したのだよ。少しは感謝せよ」

夫は、あれから、家事が楽しいと言っていそしんでいる。少しは反省しているのか、顔色が明るくなった。私は真っ暗だけどネ。家事に向いているのか、ずいぶんうまくなりアタシも大助かりだ。
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