意地悪な彼ととろ甘オフィス
〝そんなんじゃない〟〝ただの幼なじみだ〟なんていう私の言葉はいいわけにしかとってもらえなくて、うんざりしていた。
『何度言っても信じてもらえないから、今度響哉くんから言ってもらえない?』
あまりに頻繁に呼び出されるから嫌気が差してしまい、響哉くんにそうお願いしたのは中二の秋。
目を大きく見開いた響哉くんは、たっぷりと間をあけたあと『……なんて?』と聞いた。
『だから、私とはただの幼なじみだって。みんな誤解してるから』
そのまま響哉くんは黙ってしまったけれど、翌日から私の呼び出しはなくなったから、影で動いてくれたということなんだろうって思った。
――でも。
それと同時に、響哉くんが私に笑顔を向けてくれることもなくなってしまった。
話しかけるたびそっけなくされて、無視されて。急に態度の変わった響哉くんに戸惑って、そのうちに私から話しかけることもなくなった。
それが、中三の春のことだ。
***
バッグを持ち、こっそりと居酒屋の個室を抜け出す。
過去の思い出がじわじわと胸の中に広がり、たまらない思いだった。
みんなが楽しそうに笑っているなか、私だけ呼吸が苦しくて……耐えられない。やっぱり、成瀬さんと同じ空間にいるのは苦しい。
須永先輩には悪いけれどここに長くはいられない。帰ろう。
お金は明日払うって、お店を出てからメールで送ればいい……と考えそっと障子をしめる。
そして、出口に向かおうとしたところで、目の前を誰かの腕が塞いだ。
タン、と壁についた手は私の目線の位置。びくっと驚いてから視線を移して、もう一度肩が跳ねそうになった。
行く手を阻んでいたのが成瀬さんだったから。
……しまった。抜け出すとき、成瀬さんが部屋にいるかどうか確認してから出てくればよかった。
後悔しながらうつむくと、すぐに成瀬さんの声が降ってくる。