意地悪な彼ととろ甘オフィス


〝そんなんじゃない〟〝ただの幼なじみだ〟なんていう私の言葉はいいわけにしかとってもらえなくて、うんざりしていた。

『何度言っても信じてもらえないから、今度響哉くんから言ってもらえない?』

あまりに頻繁に呼び出されるから嫌気が差してしまい、響哉くんにそうお願いしたのは中二の秋。

目を大きく見開いた響哉くんは、たっぷりと間をあけたあと『……なんて?』と聞いた。

『だから、私とはただの幼なじみだって。みんな誤解してるから』

そのまま響哉くんは黙ってしまったけれど、翌日から私の呼び出しはなくなったから、影で動いてくれたということなんだろうって思った。


――でも。
それと同時に、響哉くんが私に笑顔を向けてくれることもなくなってしまった。

話しかけるたびそっけなくされて、無視されて。急に態度の変わった響哉くんに戸惑って、そのうちに私から話しかけることもなくなった。

それが、中三の春のことだ。


 ***


バッグを持ち、こっそりと居酒屋の個室を抜け出す。
過去の思い出がじわじわと胸の中に広がり、たまらない思いだった。

みんなが楽しそうに笑っているなか、私だけ呼吸が苦しくて……耐えられない。やっぱり、成瀬さんと同じ空間にいるのは苦しい。

須永先輩には悪いけれどここに長くはいられない。帰ろう。

お金は明日払うって、お店を出てからメールで送ればいい……と考えそっと障子をしめる。
そして、出口に向かおうとしたところで、目の前を誰かの腕が塞いだ。

タン、と壁についた手は私の目線の位置。びくっと驚いてから視線を移して、もう一度肩が跳ねそうになった。

行く手を阻んでいたのが成瀬さんだったから。

……しまった。抜け出すとき、成瀬さんが部屋にいるかどうか確認してから出てくればよかった。

後悔しながらうつむくと、すぐに成瀬さんの声が降ってくる。


< 7 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop