泣いた夜は次の空
夏の空
その日、私は恋をした。高校一年生の夏。まだ高校に入学してから間もない日のこと。朝眼が覚めると、私は学校にいた。周りには誰もいなくて、静まり返っていた。いつもと違う学校の雰囲気に少し動揺していた私は、少し空を見上げた。普段ならしないようなこと、できないようなことを色々やってみた。黒板に落書きしてみたり、机の上を歩いてみたり、廊下を滑ってみたり。職員室で騒いでみたり。もちろんどこの部屋にも誰もいない。少し経って人の気配を感じた。私は慌てて服を整え、あたかもそれまでその場にいなかったかのように
「おはよう」
と友達の幹太に声をかけた。しかし、彼は何事も無かったかのように私を通り過ぎて行く。
「まってよ幹ちゃん」
私はもう一度声をかけた。やはり返事はない。近くにいる何人かにも声をかけてみた。しかし、どんなに大きな声を出しても誰も返事をしなかった。私はその場にいるのが苦しくなって、必死に家まで走った。息を切らしながら、必死に走った。家に帰ると、母親と妹の芽衣がいた。
「ただいま」
と言ってリビングに入った。返事が無かったが、母親は台所で料理をしているので聞こえなくても仕方ないかと思い、ソファに腰掛けた。数分程経って、芽衣がリビングに
「おはよう」
と言いながら入ってきたので、私も
「おはよう芽衣」
と言った。しかし、返事はない。私は聞こえなかったのかなと思いもう一度声をかけようとした。だが、学校での出来事が突然フラッシュバックしてきた。(私は…。私は…。私は…。)冷や汗が止まらなかった。まさか、と思い母親に声をかけてみた。
「お母さん、何作ってるの?」
やはり返事はない。私はどこにもぶつけられない怒りと悲しみを抱きながら、自分の部屋へと向かった。そして、ベットに入るとすぐに眠りについた。どれだけ時間が経っただろうか。気づいたら私はまた学校にいた。今度はいつもと変わらない風景だった。私はいままでの出来事がなんだったのか理解できなかった。夢なのか、現実なのか。あるいは理想なのか。ただ言えることは、いままでの時間と今の時間とが違っていることだった。特に証明ができるわけでもないが、体はそう感じ取っていた。私は勇気を振り絞って、もう一度幹太に話しかけてみることにした。案の定、幹太は私のすぐ隣にいたのですぐさま行くことにした。
「おはよう幹ちゃん」
とりあえず言ってみた。すると、
「おはよう」
と返ってきた。
「よかった…。」
思わず心の声が口に出てしまった。
「どうしたの?」
と幹太。そのことを誤魔化そうとして色々話題を変えながら話しを進めていると、周りの景色がだんだん暗くなって、気づいた時には私は家のベットに横たわっていた。慌てて飛び起きると、ベットの横には人が寄っかかっていた。しかし、寝起きのせいか顔がよく見えない。目をこすって覗き込んでみたが、やはりよく見えない。声をかけてみたが返事もない。私は肩をたたいてみた。すると、その人影は跡形もなく消えてしまった。まずいと思った私は、慌ててリビングに行き、母親に色々と訪ねた。しかし、どうしたことか返事がこない。どうしようもなくて、私はまたベットに入った。こんなことを何回か続けていたある日。私が目を覚ますと、そこには大きな庭園が広がっていた。バビロンの空中庭園とでもいうべき程大きくて、美しいその庭の片隅に私は立っていた。そこは、みるもの全てが美しく、清らかで何1つ汚れのない世界だった。私は思わず息を飲んだ。しばらくすると、ある一人の男性がこちらにやってくるのがわかった。まさかと思い、あの日のことを訪ねてみた。すると、
「私があなたをお助けすることは何も不思議なことではございません。当然のことでございます。」
というなんとも奇妙な言葉が返ってきた。そして、その男は続けた。
「その日、私はあなたの学園を監視し、ある人物を探す任務についおりました。」
「ある人物?それってまさか。」
私は思わずきいた。
「そうでございます。ある人物とはそう、あなた様、月城可憐様でございます。そして、私はあなた様の護衛の藤田隆典であります。以後、お見知り置きを。」
このようなペースで話が進んで行き、とうとうあの日のことについての話になった。
「私が話しかけても誰も返事をくれないのだけれど。それはどうしてなの?」
私は質問した。
「それは、未来のあなた様が大変なことになってるからでございます。」
「大変なこと?」
「はい。あなた様は未来で………」
答えを聞く途中で急に強い光が差し込んできて、気づいた頃には自分の部屋のベットに寝そべっていた。
(なんだったんだろう。今の…)
私は不思議に思ったが、ベットの上にいたので夢だと無理やり決めつけ、再び生活を続けた。
< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop