ライアーピース



「な、何?」


歩夢の視線を感じて
ふとスプーンを持つ手を止める。


じぃっと見つめてくる歩夢は
何も言わずに真剣な表情を見せた。


「食べづらいんだけど・・・」


「若葉」


歩夢は私の手からおかゆを取って
丸盆の上に乗せると、
そっと私を抱きしめた。


「あ、歩夢・・・?」


あ・・・。香水の香り。


そう思った時、歩夢が口を開いた。


「なあ、若葉。俺はこうして
 ちゃんとそばにいてやれるよ」


「えっ?」


「不毛な恋はやめて、俺にしとけよ」




不毛な、恋・・・。


陸のことを言ってるんだ。


私の前から、姿を消した陸。
陸はもう、ここにはいない。


今、目の前にいるのは
陸じゃない。
クラスメートの歩夢だ。


何故か歩夢が、男らしく見える。


いや、男の子なんだけど、
今までの歩夢とは違う。


頼もしくて、優しくて、
ちゃんとした男の人って感じ・・・。


熱があったからかな。


寂しかったからかな。



中途半端な考えで、
私は楽になる道を選んだんだ。



「歩夢・・・」


「俺を選んで?若葉」



「うん」




間違っていたか、
正しかったかなんてわからない。


ただ、頷いた瞬間、
心の中がすっきりした。


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