ライアーピース



「あ・・・」


朝食を食べていると、
急に歩夢が声を上げた。


歩夢はしまった、というように
手で顔を覆うと、
はぁっとため息をついて重い口を開いた。


「言い忘れてた・・・」


「何が?」


「あのさ、俺、
 今日から出張なんだよね」


「えぇっ?いつまで?」


一週間くらいかなぁ。


一週間も会えないなんて
寂しけど、仕方ないよね。


私は一つ息をついて
コーヒーを飲んだ。


「それがさ、1か月なんだよね」


「は・・・?」


「・・・・・ごめん」


「えぇっ!?1か月!?」


「昨日決まったんだ。
 疲れてたから忘れてた」


そう言った歩夢は急いで
キャリーケースに着替えや荷物を詰め始める。


「出張、大丈夫?」


「大丈夫。それよりも
 若葉に会えないことが一番辛いかな」


ははっと笑う歩夢。


それを聞いて赤くなる私・・・。


「若葉。夜は暗くて危ないから
 あんまり外ウロウロすんなよ?
 大学には遅刻しないこと。
 お風呂に入ったら髪の毛を
 ちゃんと乾かすこと。それから―」


「あーもういい。
 分かってるから!
 なんか歩夢、お父さんみたい・・・」


「お父さん!?なんでだよ」


「だってあれこれと構い過ぎ。
 嫁入り前の娘のお父さんみたい」


「うるさいな」


「今度は歩夢が怒った」


二人睨みあってしばらくの沈黙が走る。


そうして二人で笑い出す。


こんな毎日がすごく幸せだった。



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