ライアーピース


陸は目を瞬かせた。


まるで何が起きているのか
わからないと言っているみたいに、
目をまん丸くさせて私を見ていた。


「えっと・・・」


陸は目を泳がせてポツリと声をあげる。


私はそんな陸を診て、静かに椅子に座った。


そうして、そっと手を差し出した。


「えっ?」


その手と私の顔を交互に見る陸。


「友達になろう」


「とも、だち・・・?」


「そう。あなたの名前は、
 陸。佐々木陸っていうの」


「陸?」


「うん。ねえ、陸。
 私と友達になって?」



陸は混乱しているのか、
少し目を閉じて黙る。


そして小さく息をつくと、
ゆっくりと目を開けて私を見た。


「でも俺、何も・・・」


私は陸の手を取って握った。


「いいの。思い出さなくていい。
 私のことは、男友達だと
 思ってくれていいからさ」


「あの・・・ええっと、新海さん?」


「若葉でいいよ」


「・・・新海はさ、どうして
 こんな俺と友達になろうとしたの?」


陸は私を見つめて言った。


“好きだから”


“特別な人だから”



・・・そんなこと言えない。


言えないし、言っちゃいけない。


私はここで折り合いをつけて、
歩夢と楓と3人で幸せになる覚悟を決めたんだから。


「あ、歩夢ってわかる?
 毎日ここに来てくれてる・・・」


「ああ、知ってる。確か、しん・・・」


はっとしたように、陸は言いかけて目を伏せた。


「もしかして、二人って・・・?」


「うん。結婚してるの」


「そっか」


「だから・・・陸は歩夢の友達だから。
 私も友達になれたらなって」


「とも・・・だち」


陸は私を見つめた。


そうしてその顔はすぐに陰り、
陸の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。


私が手に力を込めると、
陸はそっと私の手を握り返す。


その瞬間、陸の頬には涙が伝い、
それはとめどなく溢れてきた。


その涙を見ていると私まで泣きそうで、
それでも必死に堪えてみせた。


ああ、こうして陸の手を取ることなんか、
きっともう、ないんだろうなぁ。


そう思うと寂しくて、
私はさらに手の力を強めた。


ぎゅっと握ると、
応えるように返してくれる。


そんな陸が、たまらなく、
好きだった。




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