ライアーピース
Piece18



幼い頃からの想いを、
完全に断ち切るにはまだまだかかるけど、


私は時間をかけてでも、
この気持ちに蓋をするべきなんだと思う。


歩夢のために、楓のために。


そうして自分自身のために。


「歩夢。早く行くよー?」


「おう」






あれから数ヶ月が経って、
季節は春を迎えた。


今日は陸の退院の日。


私と歩夢は引っ越しの準備を手伝いに、
陸を病院まで迎えに行くことになった。


歩夢が車を走らせてしばらくすると、
病院が見えてきた。


病院の入り口前には、
少し背の高いひょろひょろの
男の人と一緒に、陸は立っていた。


「陸、退院おめでとう」


私と歩夢は陸に向けてそう言った。


隣にいた男の人が軽く会釈をして口を開いた。


「初めまして。“慈愛の家”の
 施設長をしてます。西川です」


「初めまして。新海です」


歩夢がそれに合わせて
ぺこりと頭を下げると、西川さんがにっこり笑った。


陸は病院を退院して、
施設に入ることになった。


病院の先生の紹介で、
西川さんの施設に入るように勧められた。


陸は少し不安げに立っていたけれど、
私と歩夢を見るとホッとしたように表情を和らげた。


陸と西川さんを乗せて更に車を走らせると、
1時間で慈愛の家に辿り着いた。


少し爽やかな印象の敷地内は
見ているだけで気持ちが落ち着くような、
そんな感じがした。


「ここが、佐々木さんの新しい家です」


西川さんがニコニコして陸を見つめた。


「新しい、家・・・?」


「部屋は完全個室で、家具も一通り
 揃っています。共同なのはトイレとお風呂、
 キッチンで、それ以外は君の自由に使うといい


西川さんはそう言って
一歩前に踏み出すと、くるっと振り返って笑った。


「ようこそ。慈愛の家へ」


「・・・よ、よろしくお願いします」


陸はゆっくりと頭を下げた。


その背中を私はじっと見つめる。


陸がどこか遠くへ
行くんじゃないかって思うと不安で、心配で。


もう2度と会えないような、
そんな気さえした。



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