ライアーピース



歩夢に乗せられて
アパートまで辿り着くと、歩夢は私に言った。


「若葉。若葉はさ、きっと
 陸のことが今でも好きなんだと思うよ」


「えっ?」


「きっとお前はさ、忘れよう、忘れようって
 必死になって、自分の気持ちに気づいていないんだよ」


「そんなこと・・・」


「見てると分かる。薄々感じてたんだ。
 俺よりも陸のほうが好きなんだなって」


歩夢は小さく笑うと、私の方を向いた。


「自分の気持ちを
 無理に押し殺そうとするなよ?


 素直になれ。もう束縛する
 旦那はいないんだから」


これが、歩夢なりの優しさだ。


きっと私を傷つけまいとして、
私の分まで自ら傷を負ってきたんだ。


「さ、早く帰って楓のことみてやれよ?」


「うん、あの・・・」


「ん?」


「楓のこと・・・」


私が言いにくそうにしていると、
歩夢は小さくため息をついて、私のおでこを弾いた。


「いたっ!」


「せっかく諦めようとしてたのに」


「え?」


「ね、最後のお願い、もう一つだけ聞いて?」


「何?」


「1年に1回は、楓に会わせてほしい。
 ダメかな?」


「ううん。会ってあげて」


「ん。ありがとう」


今度は大きく笑うと、
私の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「さ、行って。俺の気が変わらないうちに」


「あの、歩夢」


「んー?」


「ありがとう」


「おう」





私がアパートの部屋を開ける時、
歩夢の車の音が聞こえた。


その音を耳をすまして聞く。


完全に消えた時、
私は自分の頬を叩いて顔を上げた。


見上げた空は、
ちょうど綺麗な三日月が顔を出していた。



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