ライアーピース
Last Piece



それから数年。
楓が小学校に上がる年。


私は真っ黒なランドセルを背負った
楓と学校までの坂道を歩いていた。


「ねえ、お母さん。お父さんはー?」


「お父さんはねー、お仕事忙しいの。
 会えるのはクリスマスでしょう?
 それまでいい子にできるね?」


「うんー!でも、やっぱり
 入学式、出てほしかったなぁ」


楓は寂しそうに足元の石ころを蹴飛ばした。


無理もないよね。
年に1回しか会えないとさすがに寂しいか・・・。













無事に入学式も終わり、私と楓は家まで歩く。


途中、楓が私の手を引っ張った。


「なあに、楓」


「ねえ、あのおじちゃん、
 ずっとお母さんのこと見てるけど」


「え?」


楓が指さす方向に目を向けると、
 私は驚きのあまり言葉を失った。


「陸・・・?」


陸が、私をじっと見つめていた。


あの日会った時よりも
随分落ち着いて大人びた陸がいた。


陸は私に歩み寄ると、
楓の高さに目線を合わせてしゃがんだ。


「楓か」


「おう、おじちゃん、誰?」


楓がそう言うと、陸は私の顔を見た。


そうして視線を楓に戻すと、
陸は楓の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「おじちゃんは、お母さんの
 お友達だ。覚えておけよ。楓」


「おう!」


楓が嬉しそうに手を上げて返事をすると、
陸は立ち上がって私を見つめた。


「久しぶり」


「ひ、久しぶり。陸。
 私のこと、覚えてるの?」


「ああ。最近調子いいんだ。
 慈愛の家も出て、一人暮らししてるよ」


「そう」


陸は私の顔を覗き込むと、小さく笑った。



< 227 / 231 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop