ライアーピース



少し話さないか?と陸に誘われ、
私たちは近くのファミレスに入った。


楓がお子様セットを食べている隣で、
私と陸は向かい合わせで話をした。


今はこんなことをしてる、とか、
そんな他愛のない話を。


陸は珈琲に口をつけると、
私をじっと見つめた。


「でも、驚いたよ。
 あいつと別れたって」


「あ、うん。ちょうど
 陸と最後に会った年にね」


「なんだ。それじゃあ、
 俺が引く必要はなかったんだな」


「えっ?」


「あいつと幸せになるために
 俺はお前のこと諦めたのに」


「・・・・・」


「嘘だよ。冗談」


陸は嘆息して、そう言った。


「でも、元気そうで良かった」


「陸のほうこそ」


私がそう返すと、陸は
どこか遠くを見るように微笑んだ。


「俺さ、引っ越すんだ」


「え?」


「この町を出るよ。
 行ったこともない遠くに行く。
 今までの自分を捨てて新しく生きるんだ」


陸は淡々とそう告げた。


「だから、最後にお前に会っとこうと思って」


「もう、戻ってこないの?」


「ああ。ずっと記憶がなくなるってことは
 鬱陶しいものだと思ってたけど、
 これを機会に新しい土地で
 暮らすのも悪くないかなって」


珈琲に視線を落とした陸は続けた。


「きっとこの町での記憶は
 だんだんと薄れていくと思う。
 だけど、お前だけは、
 その薄れた記憶の中でもずっと、
 俺の頭ん中に残るんだろうなぁ」


陸は小さく笑って私を見た。


「あ、お前に渡したいものがあるんだ」


「何?」


「目、瞑って」


私は言われたまま、目を閉じた。




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