フェイク アフェア ～UMAの姫と御曹司～

「ノエルちゃん。今までよく頑張ったね。圭介君に全部聞いたよ。君は少しも悪くない。自分を責めないで。もういいんだよ、もういいんだ。これから無くしてしまっていた『ノエル』としての時間を一緒に取り戻そう。俺が手助けをする」

その言葉に胸がどくんと揺れた。。

「井原さん」
私は顔を上げないで声をかけた。

「ノエルちゃん。もう少し自分の気持ちを吐き出してごらんよ。ガマンしてたこといろいろあるでしょ？圭介君にも言えなかった事、一人でため込んでいた事」

俯いた私の頭の上から優しい声がした。

「いいんだ。他の誰も聞いていない。何なら俺のことも壁だと思ってくれていいから」
そう言うと私の後頭部に大きな手を当ててぐいっと自分の胸に押し当てた。

私の上半身は井原さんの胸と腕に包まれている。
・・・温かい。
そして、ほんのりちょっといい香りがする。

井原さんは痩せて見える。でも今わかったけど、かなりしっかりした筋肉がついている。
男の人ってこんなに大きいんだ。

今まで彼がいなかったわけじゃない。双子の兄もいる。
でも、就職してからの私は必死だった。仕事を覚えることとストーカーから逃げることで。


私は覚悟を決めて大きき息を吸った。


「井原さん。私、太ももを刺された後に相手の親から『あなたが思わせぶりな態度をしたからこんな事になったんだ』って言われたんです。すごくショックでした。
あの方たちに謝罪がしたいって言われて会ってすぐに言われたのがそれです。
私はただナースとして接していたつもりだったし、特別扱いもしていなかったのにどうしてってやりきれない気持ちになりました」

私はあの頃のことを思い出した。

その人は元入院患者だった。28才。ひとり暮らしの会社員の男性。少し気が弱そうに見えたけれど、見た目はなかなか格好良くて何か問題を抱えているような人には見えなかった。
他のスタッフからの評判も良かった。

私はごく普通に接していた。
必要な処置をして普通に会話する。ただそれだけ。
でも、退院したその人はいつの間にかストーカーになっていた。

始めは気が付かなかった。

仕事帰りの電車でよく出会うなとは思っていた。
そのうち近所のコンビニで顔を合わせるようになり、同僚と行く居酒屋で、職場の飲み会でと出会うとさすがにおかしいと思うようになった。

郵便受けには盗撮された私の写真が投げ込まれるようになり、時にはオートロックのマンションの部屋のドアに栄養ドリンクやビタミンサプリメントが入った袋がかけられていることもあった。
毎週のように花束が届いた。
そのうちラッピングされたセクシーな下着が入った袋がかけられるようになり恐怖を感じた。