フェイク アフェア ~UMAの姫と御曹司~
修一郎さんの出張中も変わりなくメールを振り分けして、私は事務作業に入った。
あ、ステープラの針が足りない。
いつもなら佐々木さんに声をかけるところだけど、佐々木さんは修一郎さんと出張中。
困った時は社長秘書さんか秘書室長さんを頼るように言われている。
専務室を出て秘書室に行くと、なぜか秘書室がざわざわとしている。室長さんの姿もない。
手前のデスクでは、初日に私の醜態を見て顔を赤らめた女子社員が電話対応で困っているようだ。
英語で電話の相手に「英語か日本語で話して欲しい」とお願いしているのだけれど通じてないみたい。
受話器から漏れて聞こえるのはどうやらドイツ語。
私は彼女の肩を軽く叩いて電話を替わるように告げた。
私は祖父の影響でドイツ語が話せる。
どうやらドイツの取引先がこちらの要望と全く違うものを発注してしまったらしい。しかし、それを謝罪するわけではなく、誤発注した物に合わせてこちらの企画を変えて欲しいとまくしたてているのだ。
こんな事があるのかと半ば呆れながら、担当部署と相談するから即答できないと伝え、担当部署に回してくれるように可愛らしい女子社員に頼み、電話内容を伝えた。
「ありがとうございます!室長が不在で誰もドイツ語はわからなくて。海外事業部に回そうと思ったんですけど、訳もわからずに取り次ぐと海外事業部長に怒られてしまうもので」
と若くて可愛らしい彼女は涙目で額に汗をかいていた。
「私こそ。ご迷惑でなければ良かったです。必要があればいつでも声をかけて下さいね。私も久しぶりにドイツ語で会話できて新鮮でした」
「そういえば、安堂さん、何かこちらに用事があったんじゃ?」
隣にいたこちらも綺麗な女子社員が申し訳なさそうに聞いてくる。