オトナの恋は礼儀知らず
エピローグ
 僕は夢を見ているようだ。
 眩い光が降り注ぐ陽だまりのように明るい白い部屋にいる。

 ただ光だけが降り注ぐ何もない白いだけの部屋。

 そこで映画を見ているような錯覚を覚えた。
 あぁ。これは君と出会った時の事だね。



 僕の隣で気持ち良さそうな寝息を立てて柔らかいぬくもりが寝ている。
 直視できない生まれたままの姿の君。

 待っても待っても夜は明けなくて、今日の夜は壊れているんだと空想まで始める始末。

 寝顔を覗くと、どんな人か知らない、名前もついさっき知った君を愛おしいと思った。

 バーで一緒にいた時は心地良かった。

 図書館で見かけた時は眉間のしわにキスしたいと思った。

 今は僕にしか見れない場所に噛みついて消えない痕を残したい。

 あぁ。僕はどうしてしまったんだ。

 彼女に対して僕はおかしい。

 病気のはずだ。
 男として機能しないはずなのに、彼女に欲情しているなんて。

 ダメだ。離したくない。

 どこかへ飛んでいきそうな理性の尻尾をどうにかつかんで取り戻す。

 どんな人か分からない。
 だけど確信できる。

 僕は彼女と初めての恋をするだろう。




 光の先から誰だかやって来て、それが待ち人だとすぐに分かった。

「こんなところで待っていたんですか?
 馬鹿ね。すぐに追いつくのに。」

 苦笑している彼女の手を取って外に出た。

 そこは一面に花が咲き誇っていて「あなたとなら花畑ね」と笑う君に僕も微笑んだ。

「さぁ。一緒に旅行へ行きましょう。
 君となら楽しい旅です。
 僕がチケットを取っておいたから。
 ずっと愛していますよ。」

「私だって愛しています。
 ありがとう。
 あら。なんのお礼だったかしら。」

「なんでしょうね。こちらこそありがとう。
 さぁ。行きましょうか。」






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