恋愛ノスタルジー
ニヤリと笑った顔が男っぽくてドキッとする。

「ほら、貸して。拭いてやるから」

言うなり彼はタオルを奪うと、私の頭にフワリとかけた。

「……名前は?」

名前。自分の名前をこの人に……。

それだけで更にドキドキが激しくなる。

「峯岸彩……です」

「俺は榊」

サカキ……。

嘘……!

身体に稲妻が走った気がした。

榊って……もしかして。

「あ、あのっ、もしかして、榊……リョウさんですか?」

そうであってほしくて、タオルの隙間から一心に彼を見上げた。

「ああ」

「あなたが……Ryo.Sakaki……」

会えた。会えたんだ、私。

一瞬にして、あの画廊にあった全ての画が脳裏に蘇った。

画の右下に走り書きのように書かれた《Ryo.Sakaki》の赤い文字も。

「上がったみたいだな」

こんなにも踊る私の胸の内とは対照的に、彼は平然とした足取りで窓へと近より、それを開けて空を見上げた。

……ああ、心臓が。

太陽光線が彼の精悍な頬を照らし、顎から肩にかけて部分的に陰影が生まれる。

それが彼の美しさを際立たせて、更に胸がドキドキと騒ぎだした。
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