恋愛ノスタルジー
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「助かった。悪かったな」

「いえ……」

彼の家は公園から程近い近代的なマンションだった。

画材道具を家の中に運び、リビングに通された私は僅かに首を振った。

それから差し出されたタオルを受け取り、彼を見上げる。

「早く頭拭いて。風邪引かれたら困る」

その時、少しクセのある漆黒の髪から雨の水が滴り、彼の精悍な頬に伝って落ちた。

やっぱり……綺麗だ。この人は凄く。

見ていると心臓がギュッとして、なんとも言えない気持ちになる。

「おい……」

気づくと私は背伸びをして、手渡されたタオルを彼の頭にかけていた。

「俺はいいから、」

「ダメです。拭かせてください!あなたが風邪を引いたら私、後悔します」

ドキドキしているせいか、声がやたらと大きくなってしまった。

「……なんで?」

少し屈んだ彼の頭を拭く私の両手に、タオルを通じて艶やかな声が振動する。

「だ、だって、私が差し出がましいことをしなければあなたは画を進められたしこんなにも濡れることもなくて、それで」

そこまで言った私の両の手首を彼が掴んだ。

「雨が降るの分かっててあそこにいたんだ。傘なんて持ってなかったしな」
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