恋愛ノスタルジー
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何がなんだか分からないうちにカレーを作り終え、私は凌央さんのマンションを出た。

地下鉄の中でも立花優さんの顔や艶のある黒髪が頭から離れない。

それから、玄関で凌央さんの首に絡めていた華奢な腕も。

「ああ……手帳。忘れてたわ。ありがとう」

キスを終え、私を見た立花優さんの目差しが胸に突き刺さる。

……彼女……凌央さんが好きなんだ。

じゃあ、凌央さんは?

凌央さんは立花さんが好きなの?

あの時の凌央さんは、どんな感じだった?

……分からない。全然思い出せない。

いや、思い出せないんじゃない。

立花さんとキスをした凌央さんを、私は怖くて見れなかったんだ。

付き合っているのだろうか。

ふたりは恋人同士なのだろうか。

頭の中はめまぐるしいのに、まるで思考がまとまらない。

鼓動が早くて苦しくて、マンションに着くと私は荷物を玄関に放置したままバスルームへと駆け込んだ。

洗面台の鏡に写る顔が、何とも間抜けだ。

よく考えたら、凌央さんみたいな素敵な人に恋人がいないわけがない。

……無鉄砲にも程がある。

熱いシャワーを浴び終えても、私の心はスッキリしない。

冷蔵庫を覗き込むと、一番にワインを見つけた。

『アキにもらったんだけど、二本あるから一本やるよ』

少し笑った凌央さんの顔。

差し出されたワインを受け取りながらドキドキしたのを覚えている。

だって、凌央さんに何かを貰ったのはこのワインが初めてだったから。

「凌央さん……」

ポツンと呟いても、私のそれに誰も気づかない。

圭吾さんはきっと今夜も遅いだろう。

私はワインのボトルを握りしめると小さく息をついた。
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