恋愛ノスタルジー
「……あの、圭吾さん。夕飯なにがいいですか?」

圭吾さんが少しだけ眉を上げた。

その後、私から眼をそらすとボソッと答える。

「……鍋」

「……鍋!?」

私と圭吾さんで?!仲良くないのに?!

反射的に叫んだ後、思わず息を飲んだ私を見て圭吾さんは僅かに両目を細めた。

「僕と鍋は嫌なのか」

「え、」

ギクリと固まる私にムカついたのか(いやその前から怒ってるけど)圭吾さんは私の脇をすり抜けるとバスルームに消えていった。

……鍋……正気かしら。

「あ」

アラームのスヌーズ音が鳴り出した。

これ以上ゆっくりはしていられない。

私はリビングへと急ぐとバッグからスマホを取り出した。


*****


『あっはははは!仕事忙しすぎて狂ったんじゃない?!狂っちゃったからあんたと二人で鍋食いたいとか思ったのよ、多分!』

く、食いたいって……。

昼休憩時に美月にラインすると、彼女はすぐさま電話を掛けてきて爆笑した。

「どうしよう。昨夜の事をメッチャクチャ叱られるんだわ、きっと」

泣きそうになりつつそう言った私に、美月は笑いを噛み締めながら答える。

「すっごい叱ってやろうと思ってる相手と鍋なんか食べないでしょうよ」

「じゃあなに?!慰めてくれるとか?!」

「さあね。分からないけどすっごく面白いから後でちゃんと報告しなさいよ。記憶なくしたらただじゃおかないわよ。じゃあね」

「あ、待って美月……」

切れた。

……凌央さんと立花さんのキスの話、まるでスルーだったじゃん。

「ああ……」

ため息に言葉が混ざる。

私は社食の隅っこでグッタリと突っ伏すと、圭吾さんと二人だけで鍋をつつく自分を想像して身震いした。
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