恋愛ノスタルジー
「ええっ?!」

急にボタボタと大粒の雫が落ちてきて、私は思わず声をあげた。

瞬く間に人工池の水面が乱れ、人々が慌ただしく走り出す。

子供達やその親、散歩中の女性達。

屋根付きのベンチはここからは遠いし、このハイヒールでは辿り着く前にずぶ濡れだ。

木々は沢山あれど、この大粒の雨からはとてもじゃないけど守ってくれそうにない。

それでも私は出来るだけ雨から逃れようと辺りを見回し、大きめの木の下へと駆け込んだ。

それからバッグを探ってハンカチを取り出すと、二の腕を拭こうと腕を上げる。

「……冷たい」

辺りを見回して溜め息をついたその時、あるものが私の視界に写り込んだ。

遠いけど……あれはイーゼルだ。

イーゼルだけじゃなくカンヴァスも乗せられている。

確かにこの自然豊かな公園には、普段からイーゼルを持ち込んで画を描いている人が多い。

でも……。

信じられない。こんなに雨が降ってるのに、持ち主がいないなんて。

それともこの雨で画を諦めたとか?

何処かに画の主がいないかと辺りを見回してみたけれど、この雨だし木々が多いせいか見付けられない。

遠くてどんな画かは分からないけれど、濡れているのは確実だ。

そして相変わらず斜めに吹きぶる雨はやむ気配がない。
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