国王陛下の極上ティータイム
第一、自分を見つけてくれる人などいないだろうと思った。一介のお茶係である自分ががいなくなったところで王宮はきっと何も変わらない。

茶を淹れることを仕事にしているが、よくよく考えれば茶を淹れることなど誰にでもできること。あのセレスティーナ姫にさえできることなのだ。

それにこの王宮にはブランがいる。長年この王宮に仕えて、クラリスよりずっと技術も知識もあるブランがいるのだ。この前やってきたばかりのクラリスがいなくなったところで、王宮に何か差支えがあるとは思えない。

オルレアン伯爵家にしても、オルレアン伯爵家より身分の高い王宮という場所でクラリスがいなくなったところで何か被害被ることもないだろう。


そう思うと途端に笑えてくる。


自分が茶を淹れると喜んでくれる人はいる。しかし自分が茶を淹れなかったからといって、いなくなったからといって、悲しんでくれる人はこの世界にいないのだ。

自分は大して価値のない人間だと思わずにはいられない。

そんな価値のない人間を助けてくれるもの好きなど、どこにいるだろうか。


そんな思考の淵で、ある声が脳内に響いた。


『クラリス』

『これからも王宮で茶を淹れてみない?』


腹が立つのに、むしろ、嫌いなのに。

どうしてこの声を思い出してしまうのだろう。

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