エリート医師のイジワルな溺甘療法


ぼんやりしながらも帰り着いた彼のマンションは高級で広く、一般庶民には縁のないものだと改めて感じる。

彼は敏腕整形外科医。院長先生の孫娘との縁談なら、彼にとってはこの上なくいい話なのだ。

いずれは、あの病院の後継ぎになれるんだろうから。

患者の人気があって、同僚からの信頼も厚そうで、アメリカ帰りのハイスペックなお医者さま。院長先生が後継ぎに考えるのも当然のことだ。

彼は開業医を目指していたけれど、一から始めるよりも藤村整形外科を継いだ方が断然楽だろう。将来が約束されているのに、縁談を断る人がいるだろうか。

このマンションを買ったのは、スーツ女子の言った通り孫娘との結婚準備をするため。


「そっか。そうだったんだ……」


今はこの理由がいちばんしっくりする。彼は、結婚と恋愛は別のタイプということか。

それなら私は、さっさと身を引かなきゃ。

彼からの深い愛情を感じて、結婚という言葉に浮かれて将来を夢見ていたけれど、すっぱりあきらめなきゃいけない。

でも……本当にそうなのかな。

彼は、私とのことは真剣に考えてないの?

今までの彼の言動からは、私を騙すようなウソや誤魔化しは感じられなかった。

彼の瞳も腕も指先も心も、私だけに向いているように思う。


「おかしいよね?」


だったら私は、きっちりたしかめなくちゃ。

もう半分玉砕しているようなものだから、怖いものはない。



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